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2012年10月20日

’91『ヴァレンタイン・エレジー』

2008年2月14日(木) 00:00 ▼コメント(2)

 エージェントさまから「バレンタインエレジー面白かったです。当時の空気の色が出てましたね」とのコメントを頂戴しました。それがヒントになって、改題いたしました。旧題名は「2月14日のエレジー」です。(2/16 9:26)

 1991年作品です。もう17年も前にカキコしたものですけど、全然カワってないというか、進化していないというか。ただ、自分のことを「おれ」と表現しているのは極めてマレ。「おれなんかさ」とか自分で言うの、スッゴイ嫌いなんですよ。

 ただ、それだけのことなんですけどね。でも、紛れない17年前のワタシがココにいます。

 しかし、「チョコ」っていうとスッゴイ時代遅れな感じがしちゃいますね。もう、時代はすっかり「ショコラ」でございますよ。当然「シュー・ア・ラ・クレーム」ですし、「クレーム・ブリュレ」。「エクレア」って稲妻のことなんですけど、幼稚園の頃から知ってましたぁ、ワタシ。むかあしから、どーでもいーことばっかり、頭に入れていたんですね。

 しっかし、まだ義理チョコ全盛の時代でしたからね、当時。女性が自分のために買うとか男性までもがそうなるなんて、考えもつかないという。札幌・丸井今井さまで開かれた「サロン・デュ・ショコラ」なんて、客単価1万円ですって。当然義理チョコではなくて、自分や友達同士で楽しむために購入するわけでして。しかも行列してまで。



 『ヴァレンタイン・エレジー』


 いつもと同じように出勤して、おれの想像していた通りの事務所になっているのを確認した。意地の悪い目つきをして、鼻を「フン」と鳴らし、唇をゆがめて言ってみる。

「けっ、バレンタインってやつかい」

 おれは生命保険会社の新入社員だ。もう45日も過ぎればその肩書きもはずれてしまうが、まだルーキーだ。朝一番最初に部屋入りするのは、新人心得第一条だと思っているから、おれはそれを守っている。だから部屋には人影がない。

 朝一の部屋は本来気持ちがいい。初めての女と一発やった後の気分に通じるものがある。しかし今日は、いつもと違った雰囲気に満ち満ちている。どこか部屋が変なのだ。

 理由はハッキリしている。社員には一人一人に机があるが、そのうちの約2/3、それも男の机の上には色とりどりにラッピングされたチョコレートの入った箱が置いてあるのだ。昨日帰りに用意したのだろう。もちろん包みを開けたわけではないから、中身がチョコだと断定できはしない。けれどもこの日にそれ以外のものが用意されているなんて、考えるほうがどうかしている。

 一見華やかな包みも、よくよく見ればデパートやスーパーの「バレンタイン・フェア」なんていうコーナーの山積みされた、この時期にしか名前を目にしないようなメーカーの製品だ。確かめなくても容易に想像がつく。

 別にそれが悪いってわけじゃない。「職場の潤滑油になればいいのぉ」などと稚拙ながら殊勝な、しかしその実狡猾な、3月14日のお返しを期待してのプレゼントだということは、わかっているのだ。

 それでも心優しい男たちは、300円のチョコに対して1,000円のパンティを贈るのだ、嬉々として。こんなことで満足できるのだから、男はお人好しとしか言いようがない。

 意地悪な目つきのまま、そんなことを考えながら、おれは自分のデスクに向かう。ところが何故か、そこは昨日おれが退社したときそのままだ。

「な、ない」

 なんとおれの机の上には何も置かれていない。三つずつ向かい合わせにセットされたデスクの窓側の真ん中がおれの席だ。両端は女の席で、向かい側は全て男の席だ。その向かいには3個の包みがセットされているが、おれのところにはない。いすの上に目を走らせても、見当たらない。床に落ちてもいない。

 顔が徐々にこわばっていくのがわかる。部屋にお茶当番の女が入ってきた。いつまでも変な顔はしていられない。しかし、これは一体・・・。

 仕事中、不思議とバレンタインの話題はひとつもでなかった。もし、そうなろうものなら、おれは怒りで身体が震えたかもしれない。

 おれにだけチョコが与えられなかった理由を、昼休み煙草をくわえながらサ店(喫茶店)で考えてみた。

①単純にチョコを置き忘れた
②おれの存在が忘れられた
③おれのことを男だと思っていない
④おれを好きな女がいて、そいつに花を持たせるため
⑤盗まれた
⑥おれには義理チョコですら与えるべきではないと判断された

 手帳に全部書き、可能性の薄いものから消去する。まず、⑥。おれは花の独身でハンサムだ。そこらの男より所得も多い。事実モテる。次に⑤。あんなもの盗む馬鹿はいない。

 ②と③。おれは目立つし、男っぽい。残るは①と④だ。まず①だが、女は全員おれのことを気にかけているから、可能性は少ないはずだ。しかし、女は馬鹿だ。ありうる。しかし、そうはいっても本命は④だろう。

 冷静になって考えてみればコレしかない。ついにおれを巡る女たちの争いに決着がついたのだろう。美穂か桂子か。あゆみのバストも捨てがたい。

 おれは3本目のキャスターに火をつけると、こみ上げる笑いを抑えることができなかった。

 勤務時間終了を伝えるブザーが室内に低く響く。リラックスした空気が満ち始めるが、まだ社員は全員残っている。こんなところにいたら、女はおれに告白などできはしまい。しかし、じらすのも恋のテクニックだなどと悦にいっていると、まわりでは女たちがキャアキャア言っている。

 部長のはどんなのぉ、長谷川課長のわぁ、などと包みの中の品定めだ。自分たちで買ったくせに、何を考えているのかワカラない。

 一通り終わったようで、ハイミスの良美がおれのところにやってきた。思わず、ゲッ、と口にする。こいつはイヤだ。入社以来3べんも泣かされた。いじめるのは愛情の表現というがゴメンだ。こいつに愛の告白などされてたまるものか。

「マンゾーはどんなのもらったの」

 こいつはなにも知らされていないらしい。ついに女たちからも仲間ハズレにされたのだろう。

「いやあ、僕のところには何も置かれてませんでしたよ。ハハハハハハハ」
「あらそう、やっぱり。あんたには何もやりたくないって、みんな言ってたから。かわいそうだけど、自業自得ね。来年、また頑張れば。クックック」

 尻を振りながら、良美は行ってしまった。おれは独りになれる時を待ち続けた。独りになれば、美穂か桂子かあゆみがおれに告白するのだ。そうに決まっているのだ。

 そのうち、誰もいなくなった。おれは全然メゲなかった。急いで帰ることにした。凍えながら、美穂か桂子かあゆみが待っているハズだからだ。

   (了)

コメント(2件)

02-23 01:27
なぎ @bbexcite.jp
毎回拝見するたびに背景が変わってますね。

そもそも義理チョコっていつから発生したので
しょうね。学生の頃は片思いの彼にドキドキ
しながら送るためのものだったんですけどね。
このところのブームにはいささか戸惑いも
まります。なんか完全に乗せられてる気がして。

とはいえ、毎年会社の方に配っていたのですが、
とある方から「気を使わなくていいからね」と
言われ、義理が義務に変わってる自分が
いるのにも気づきましたわぁ。
なので、今年は簡素化。来年はもうどうしましょう。

・・・どうなんでしょうね、義理チョコって。
まぁそれも貰う人それぞれなんでしょうけどね。

17年前の萬造さまってこんな感じだったのですかぁ。




02-23 06:44
端野 萬造
>なぎさま
 「義理が義務」。なるほどね、でございます。実際は義理立てしなきゃならないような関係でもないのに、「気」を遣うあまりにその範囲が拡大してしまったものだから、結局なんだかワカんなくなってしまったという。「周囲に気を配り過ぎる」日本人の側面が「義理」チョコを促進させてしまったということですよね。でも確実に流れは変わっているようです。

 「友チョコ」の流れは完全に「マイチョコ」に向かい、男性自身も自分で買って食べるようになりつつある。日本でのヴァレンタインズディは「女性から愛を告白してもいい日」という今となってはワケのワカらない解釈が成り立ち。ま、変質していくのもムベなるかな、でしょうね。

 傲岸不遜自意識過剰自信過剰自己満足自分勝手は、現在のワタシも変わっておりません。人間の本質は変えられませんもの。ただ、それの出し方が変わるだけ。今よりもっと酷かったということでしょうね。
  


Posted by きむらまどか at 08:15Comments(0)創作・失われた街角