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2012年10月14日

『あえる、あえない』は愛ルケにどこまで迫った/3回連続落選中

2008年2月4日(月) 00:00 ▼コメント(25)

 やっとといいますかね、映像になった「の流刑地」 を観ることができました。まだ、前半部だけなんですけれども。高岡早紀さまと岸谷五朗さまとのTV版ですね。ワタシ原作は日経本紙のほうで毎朝読んでおりました。まぁ展開があれでございますんで、「あらららららら」といった感じでございましたが。

 これ、原作にあったかどうかは手元にないので定かではないのですが、TV版を観ていてうーんと唸った台詞がありました。ヒロインの冬香なんですけどね。ふりん相手の作家・村尾が二人の関係を題材にして十年ぶりの新作を完成させるのですね。それを読んだあと、村尾にいった言葉。

 私たちの子どもができたんですもの。
(中略)
 だから「虚無と熱情」は私たちの愛の結晶なの。子どもは愛がなくても生まれるけど、小説は愛がないと生まれないもの。

 確かにですね、できあがったばかりの作品は自分の赤ん坊が生まれたのと同じで、善いも悪いも自分では考えられないのですよ。できたあがったことが、ただ愛しくて、嬉しくて。たとえそれが、どんな駄作であろうとも。ココロをこめた分だけ、そう思えるものです。

 これは「あえる、あえない」に対する言い訳なのですけれど。

 「まんへり№809」にてはコメント受付しないかも、と予告しましたが平気です。お気軽に感想等カキコんでくださいましな。

 メインはコメント欄でご紹介した、かつて使用していたプロフィール画像。





『あえる、あえない』



『庵莉です。携帯番号を教えていただいたので、Cメールしてみました。これから図書館へ行く予定です。では』

 庵莉(あんり)はネットでつかう名前。本名は栞(しおり)。夫は庵莉の存在を知らないし、知ろうともしない。CメールはEメールと違って電話番号だけでやり取りできて、短いメッセージを送るときに簡単。でも、あまりにそっけなくて家族の連絡専用みたいな感じ。だから、萬造さんとの間ではふさわしいのかなって。もう彼に携帯の番号が知られても構わないし。

 萬造さんの存在はネットのある掲示板で知った。辛らつなもののいい方で、そのコミュニティでは嫌う人も少なくなかったけれど。栞自身は交わることはほとんどなかった。けれど彼が批判的なコメントに対しても、必ず最後までつきあうことに好感を持っていた。

 メールなら無料でよろず相談を受け付けるという萬造さんはEメールアドレスを公開していた。色々あって掲示板から離れることを決めたとき、相談ごとはなかったけれどメールしたのは、やっぱり気になる存在だったから。萬造さんも掲示板で目立っていた庵莉に興味を持っていたようで、掲示板の状況や身の回りのささいなことをやり取りし始めた。わたしよりも十歳年上だという彼は経験豊富で、もっと年上に感じることが度々。得ることが多かったから、続けてしまった。

 そして、そんなときに「こと」が起こっていて。夫にモンスターがついているのに気づくのが遅れたのは、ほんと不覚。夫のこと、ずっと愛していたし。結婚して8年。いつも忙しくしている人で、粗雑だけど真面目、そんなことができるとは思っていなかった。娘の杏(あんず)と李(すもも)はまだ手のかかる盛り。杏は幼稚園にあがったばかりで、李にいたってはまだおっぱいを欲しがるくらい。ほんとうは一緒に子育てしたかったけれど、休日も出勤するのが当たり前みたいな夫に、わたしはできるだけ負担をかけたくなかった。そんな気遣いをしていたというのに、夫というひとは一体・・・。

 今考えると夫の行動は確かにおかしなとこが多かった。でも、はじめの頃はまったく疑っていなかったから、なんだろう変な人、としか思えなかった。帰宅してから自室での電話が多くなったのがはじまり。わたしにはメールの返事もしないくせに、部屋でひとり親指を忙しく動かしていたり。そして終わったあとには必ず言い訳。わたしの知っている職場の同僚や同級生の名前を出して、「あいつがこうなんだよね」って説明するパターン。

 最初のうちは「ふーん」って聞けていた。でもだんだんおかしいなって。夫婦生活もなくなっていたし、身体に触れられることさえ避けられている様子だったし。不安感に耐えられなくなって、ついつい夫の携帯を見てしまったら、ああ、なんてこと。3日間食事がのどを通らなかった。

 そのことは最初萬造さんに伝えなかった。交換日記みたいになって一年以上になるけれど、夫の職業や子どもたちのことは避けていたし、栞という本名すら教えていない。萬造さんから訊ねられることもなかった。そんな部分には触れないで、というわたしの意図を萬造さんはくんでくれていて。街ですれ違ったとしてもお互い気づくことすらない関係。それを守っていたつもり。

 だから、夫の秘密を知ってしまったときには交換日記を休むことにした。不安定になってしまったわたしに萬造さんを巻き込めないと感じたから。『しばらくメールはお休みします』と彼に伝えたのだけれど、結局すぐに再開してしまったのはわたしのほう。夫の立場を考えてしまって、誰にも相談できない状況に耐え切れなくなってしまった。そのときね、萬造さんが『必要なら、電話しなさい』って、携帯の番号を教えてくれたのは。

 考えてみると萬造さんは相談相手として最適な存在だった。わたしにも家族にも面識がなくて、でも気心は知れていて、男の側からの見方を教えてくれて。彼の離婚理由は女性関係ではなくて、お酒とギャンブル。むしろ、そのほうが夫寄りの意見を聞かせられなくて良かったと思う。とにかく思いを吐き出すことができて、わたしは救われた。

FROM:端野萬造 件名:別離の訳
『うわきってさ、ココロが配偶者以外の人にいってしまったってことだよね。ていうことはさ、人以外に興味の対象が移ってしまった場合はうわきにはならないのかな。確かにワタシはお酒とギャンブルで妻と子どもに逃げられたわけだけど。これってシングルモルトや大吟醸、パチンコ台や競馬にうわきしたのと一緒じゃないかな、って。そうとられてしまったから、離婚されたのかな、って』

 午前10時半。今日も休日出勤の夫を送り出してから、1時間過ぎていた。洗濯と掃除が終わったと思ったら、杏と李はプリキュアのビデオに飽きてしまっていて「おかあさん、きょうはどこいくの」と飛び跳ねながらうるさい。休日といったらどこかに連れていってもらえるものだと思い込んでいるんだから。

 今朝出がけに夫はくちびるを求めてきた。前日、モンスターとなにか揉めるといつもそうね。夫の携帯メールをわたしのに転送するようにセットしてから二人の行動はわかっている。キスをしてもときめかない。わたしは表情も変えずに応じているのに夫は気づいていないのかしら。たぶん罪滅ぼしのつもりで、前夜モンスターと関係を持ってもしてくる。それもわかっているの。もともと李を妊娠してから減っていた、わたしとの関係は一年以上ないってことは、意識していないだろう。

10時32分
『090―××××―1374にメールが届きました』
 表示を画面で確認すると「1374(いみなし)かも」とつぶやいて栞は白い携帯をそっと閉じた。杏と李に声をかける。「図書館にいくわよ。ほら、靴下はきなさい」

 9月に入っても帯広は蒸し暑くていらいらするような日が続いていたけれど、下旬になると太陽が照っても風はさわやか。心境の変化が皮膚を別のものにしてしまったのかも。夫とモンスターの関係がうわきではなくてふりんとわかってから、わたしは覚悟を決めてしまった。離婚という文字を胸にしてからふっ切れてしまったのね。悲しむだけっていうのはやめた。夫の心変わりがあったとしても、きっちり落とし前だけはつけなければって。

 メールを送ってから、1時間もたってしまっている。まめな萬造さんのことだから、気づいていれば何か返事があるはず。何も送ってこないところをみると、メールを見ていないのか、気づかないふりをしてわたしの意図を避けようとしているのか。どちらだろう。

 萬造さんにわたしの姿を見てもらいたくなったのは衝動的な発想。いや、ただタイミングを待っていたのかな。そしてこれは賭け。わたしの離婚の決意が運命に導かれたものであるならば、きっと萬造さんは現れる。なんて大袈裟だけど、そんな気分だった。

 夫にふりんされてしまう子持ちの主婦なんて、女としての魅力に欠けていると思われたって、しょうがないかもしれない。でも、わたしは違う、そんなことはないって信じたい。萬造さんに会ってなにか言ってもらえれば、夫の仕打ちに萎えかけた自信が回復するんじゃないかって。彼も会ったことのないわたしに『ウエルカム(笑)』って。独身だからお気軽なものいいだけれど。

11時34分
萬造:『今ごろ気づきました。偶然近くのパチンコパーラーにいます。時短中なのに玉が減る(怒)』

栞:『そういうことって、ありますよね。離婚の参考になる本いろいろ借りたかったのに子たちは逃走します』

 萬造さんは来てくれるのだろうか。文面からはわからない。お願い。一瞬でいいから姿を見せて欲しい。わたしにはもう時間がない。杏と李は図書館に飽きてきて、「おうちにかえろー」と騒ぎはじめた。
11時47分
萬造:『やっと(玉が)なくなってくれたよ』

 煙草の臭いを気にしながら図書館に駆け足で移動する。信号を待つのももどかしい。ワタシは新しい図書館に慣れていない。明るくてきれいな建物には、親しみよりもむしろ圧倒されて気後れしている。館内に入って、それらしい人を探す。手掛かりは背が高くてスリムな女性ということ。それも掲示板で誰かが書いていたなというあいまいな記憶だけ。

 離婚関係の書籍があるコーナーを探そうとしたがあきらめた。フロアを右往左往するうちに子どもの本が並んでいるところに偶然入り込む。母親らしき女性が多い。その中でひときわ背の高さが目立つ女性が目に入った。髪は肩にかかるくらいの長さでしばってあった。薄いピンクのカットソーに白いカーディガンが色白の顔を引き立てている。無地のスカートと濃紺のソックスが清潔な上品さを醸しだしていた。

 だが、それでその人が庵莉さんと決まったわけではない。ただ、女児がふたり、まとわりついたり、逃げ出したりしている。女の子が二人いるというのは本人から伝えられていた。

(たぶん、あれが庵莉さんだ)

 子どもたちの相手をしながら、その女性は時折窓の外を気にするそぶりをしている。誰かと待ち合わせでもしているのか。もしかするとワタシのことか。時間が足りないかもしれないが、いきなり話しかけて違ったら、どうする。Cメールを送ることにした。携帯電話のパネルに不慣れな右手親指がもどかしい。

11時52分
萬造:『本は見つかりましたか? 白いカーディガン着てます?』

 操作を終えて目を上げると3人はワタシの前から消えていた。しばらくその場を探すが見当たらない。女性が本を数冊手にしていたのを思いだす。既に貸出カウンターで手続きしているのかもしれない。慌ててカウンターに視線を移すと親子はそこから離れて出口に向かう様子だった。幼児連れの速度は遅い。すぐに追いつくだろう。

 結局、萬造さんはあらわれてくれなかったな、と栞は嘆息した。『図書館に行く』とはメールしたけれど、『わたしを見てもらえますか』と頼んだわけではないし。ただ、萬造さんの好奇心か洞察力に賭けただけ。子どもたちの手を引きながら、少し後悔していた。はっきり『来てくれませんか』と頼んでしまったほうが結果はどうあれ、すっきりしたはずだったのに。

駐車場に向かう通路を抜けると夫が出かけるときには降っていた雨がなかったかのように青空が広がっている。「女ごころと秋の空」っていうじゃない、切り替えなきゃ、ともうひとりのわたしがささやいた。

 助手席に座ってしまった杏を見て、アタシが助手席に座りたい、と李がぐずる。杏は譲る気など毛頭ないようだし、わがままを認めてしまうことになるから、そんなことはさせたくない。李はいよいよ泣き出した。こうなるともう抱き上げてなだめるしかなくなってしまう。李のほうが感情の起伏が激しくて気が強いと栞は思っていた。夫に似ている。

 いつものことで、うんざりとしながらも2度3度ゆすり上げ、落ち着かせる。しばらく抱っこの姿勢を続けなければならない。時間つぶしのついでに最後の期待で栞はショルダーバッグから携帯電話を取り出してみる。

 7分前にメールが入っていた。子どもたちの騒がしさで気づけなかったのだろう。萬造さんはわたしを見つけている。急いで返事を打つ。文面が妙ちくりんになってしまったが構っていられない。急がなきゃ。

12時丁度
栞:『そうです』

12時1分
萬造:『そばにいます』

 栞は李を抱いたまま、周囲の様子を探った。駐車場の出口付近に男性がたむろっていたのは気付いていて、その彼が近づいてくる。口元に笑みをたたえて、小豆色の長袖Tシャツにジーンズ。視線は栞を捉えて離さない。短髪で身長は高く、がっしりした感じ。黒縁セルフレームの眼鏡が硬い文章の印象そのままだった。

(あれが萬造さんかあ)

 明るい日差しが目に染みた。

 白いカーディガンを着た女性が周囲に視線を泳がせる様子を確かめると萬造はそれが庵莉さんであることをやっと確信できた。とはいうものの、彼女が萬造に会いたいと思っているかどうかはわからない。それが気弱にさせたが、えいままよ、と花壇を一足飛びに乗り越える。

 お互い笑顔で顔を見合わせる。萬造は安心した。会ってしまったことに対して少なくとも迷惑には感じていないのだろう。正面から見ても、彼女は美しかった。茶色の瞳が印象的で、萬造は見つめられて照れた。こんな感覚は久し振りだった。

「こんにちは。萬造です」
「はじめまして。庵莉です」

 栞は思わず本名を名乗ってしまいそうになって、あわててしまう。ぐずっていた李も栞にしがみついたまま、萬造さんのことを見ている。彼は李に「きれいなおかあさんに抱っこしてもらって、いいね」と話しかける。うなずきながら李は一層強くしがみつく。

それで納得したのか、萬造さんは2度深くうなずくと「じゃあね」と微笑んだ。そして廻れ右すると図書館に向かっていった。会話はなくても、栞にはそれで十分だった。見えなくなるまで、後ろ姿を見送る。少し猫背ね。

 クルマに乗り込んだ途端、杏が「いまのひとだあれ」と訊く。「ママのお友達よ」と答えながら、はたして萬造さんはわたしにとってどういった存在なんだろうと考える。メール以外での付き合いはなかったわけだから、普通にはめる友というのだろうけど。必要な存在になってしまっていても、恋愛感情とは違う。もし兄がいたら、あんな感じなのかも知れない。

FROM:端野萬造 件名:きれいなママ
『ご夫君は寂しかったんじゃないの。庵莉さまがどこか自分の入り込めない世界に行ってしまったのが。わかりあえる、わかりあえない、はそんなところに原因があるかもしれない。今となってはどうしようもないけれど』

FROM:庵莉 件名:Re:きれいなママ
『相手の人に連絡してしまえば終わるかもしれません。だけど、夫の気持ちが戻ってこない限り、ささやかな子供や私との日常を大切に思えなくなっているのだとしたら、どうしようもないんじゃないかと思うのです。やだ・・・、泣けてきました』

 一週間に一度のメールは、気付いたらほぼ毎日になっている。        (了)



コメント(25件)


02-04 14:10
ピョン子
あの~、非常にコメしにくいのですが一言。
お母様、大切にしてあげて下さいね。




02-04 22:06
端野 萬造
>ピョン子さま
 大部分の方には意味不明ですね。ワタシも多少困惑の気配でございます。でも、お気持ちはワカる。そして母は全く大丈夫。昨日彼女は温泉に一泊したのですが、家の鍵を持っていくのをサラリと忘れたのですね。帰ってくるまで、それに気付いていなかったようで。

 当然家には誰もいない。隠し鍵も用意していない。常道ならワタシを呼び出すでしょう。ところが彼女の選択にその文字はなかった。で、どうしたと思います?

 20年ほど前にワタシが同じ状況に陥って対処した方法を思い出したのです。サッシの鍵の甘いところを探し出し、鍵をあけて窓をはずし、そこから家に潜入するというワザを。

 悪戦苦闘の末、彼女は見事成功しました。先ほど誇らしげに報告を受けたところでございました。明日で母は69歳になります。

 こんな母と一緒に住んでいるというだけで、十分大切にしているかと。もちろん感謝はしておりますけれど。




02-05 10:05
ピョン子
お母様、ご健康の様でなによりです。
(しっかり笑わせて頂きましたよ)

でも無理は禁物ですね~、次回はちゃんと萬造さまを呼ぶようにおしゃって下さいね。(笑)

ちなみに私の父は昨日4日が誕生日でした。
そして8日は母の誕生日。一緒にお祝いできるのは今年が最後になりそうです。






02-05 12:40
ピョン子
追伸
お母様お誕生日おめでとうございます(*^_^*)
いつまでもお元気で!!




02-05 21:50
端野 萬造
>ピョン子さま
 お気遣いありがとうございます。今年のプレゼントは薔薇の花束と柳月の「十勝高原フロマージュ」でお茶を濁してしまいました。帰り道に購入して、いつもの通り徒歩にしましたが、転ぶことができない、というプレッシャーで疲れましたね(笑)。

 それでも笑顔を見せられると嬉しいもので。色々な意味で苦労を掛けておりますものですから、ちょっぴり罪滅ぼしもできたのかな、と。

 でもいつまでも元気でいられると困ってしまいますね。人間死ぬのはしょーがないですから、希望は死ぬまで元気でいて欲しいということと、ワタシより先に死んで欲しいということくらいですかね。

 そうですか、一緒のお祝いは今年が最後ですか。どのような理由でそうなるのか想像の域をでませんが、残された日々を存分に生かせてあげたいですね。ご本人の意思と家族の思いやりと。

 さて、もうそろそろ小説へのコメントもいただきたいな、と。






02-10 17:42
ぱんだのだ。 @bbtec.net
萬造さま、お久しぶりです!
名前変えましたので、誰か分からないですよね・・・
すみません!

そして新年のご挨拶もしないで
2月になってしまいました。
10月からバタバタしまして
なんだか毎日ドドドと寝てしまいます。

この小説、続きありますか?
すっごく読みたいです。




02-10 19:42
端野 萬造
>ぱんだのだ。さま
 30秒考えて推理致しましたよ。「すみません!」と「10月からバタバタ」でああ恐らく○○○○○さまであろうな、と。「ドドド」とお休みなんですか(笑)。宮沢賢治の風の音のようでございますね。

 続きは残念ながらありません。期待に応えられず、申し訳ない。あなたはマイとかちのファンというよりは「端萬記」ファンでしょうし、一年前からの読者歴のはずなので、登場人物に関して予備的知識は全くないハズですよね。

 そういったなかでも興味がある、というのは嬉しい反応でございましてね。作品としてお読みいただけたということですものね。

 夫を持つ女性として、ココまではっきりカキコされると生々しくて、というご意見もあるのですがそんな点はいかがでしょうか。

 さて、座興です。ラストシーンが物足りなかったという意見もありましたので、その後栞と萬造はどうなったか、について遊んでみましょう。




02-10 20:14
端野 萬造
①「ほぼ毎日・・・」を消して
 パソコン画面上でメールの送信ボタンをクリックした後、ふと栞は思った。
 私が夫と「わかりあえる」には、自分も同じようにしてしまったほうが良いのではないかと。

 一週間後、深呼吸しながら携帯を開く。Cメールを打つ指が震えた。

②同様に
 年が明けた一月。萬造に庵莉からEメールが入った。
「話がつきました。子供と三人で生きていくことになりました。引越し先が決まったら連絡しますね。栞」
 萬造はつぶやく。
(「お兄さん」は廃業してもいいのかな)

 さて、お好みはどちらでございましょう。まぁ、ドチラをお選びになられましても、似たようなものですが。お、それお使いになられますか。

 これなんですか。

 それこんどーむですね。お使いになられますか。

 え、まさか。あ、風邪薬でいいのないですか。

http://www.mytokachi.jp/mt.php?id=kabamaru_7&blog_code=296






02-10 20:25
とどこ
★"端野 萬造さん
私本物の渡辺淳一先生に お会いしたことが、あります。本物に物腰がやさしい、それでいて、医者として活躍されていたからか、焦点を絞った話され方。  それだけで私は数々の  小説のヒロインの気分に なったのはいうまでもありません。あんなおじさまだったら私も失楽しそう。




02-10 20:48
端野 萬造
>とどこさま
 渡辺淳一先生に関しては、正反対の評価もあるようですね。「やたら人の躰触ってきて。ただのスケベじじいよ」

 ワタシ思うに、どちらも本当の渡辺先生なんだろうな、と。だってね、ワタシのことをかつて「エロじじぃ」と判断されていた方がいらっしゃいましてね。ええ、本人から伺いましたんで間違いありません。

 その理由がですね、プロフィール画像にバスルームでティーを楽しむ外国人女性を遣っていたからなんですって。

 その画像というのは実写版サンダーバードに出演したペネロープ役のソフィア・マイルズが大変カッコよくってですね、それで選んだのですが。

 ちなみに色々考えた末、この記事のメイン画像にアゲました。「エロじじぃ」でしょうか(笑)。それはさておき、新進気鋭の作家でもあるとどこさま。「あえる、あえない」はお楽しみいただけましたでしょうか。どのような意味でも結構でございますが。






02-10 20:57
とどこ
★"端野 萬造さん
ああ、でも、先生はきっぱりおっしゃっていました。私の小説は実体験が、ないと書けないと。ですから、側室がたくさんいるかと 思われます。すけべじじいでも知性があれば十分。 小説おもしろく読ませていただきました。続き待っています。やはり、究極のエロチズムは芸術です。  クリムトのいやらしい~絵もアートで評価されるみたいに~。はは。     なあに書いてんだろう~。




02-10 22:03
端野 萬造
>とどこさま
 ワタシの想像では「実体験がないと・・・」は口説き文句ですね。恐らく間違いない。この言葉で自分が小説の主人公、あるいは脇役としてでも登場できるかも知れない、という期待を女性に抱かせてしまうという。

 篠山紀信先生にならヌード撮られても構わない、という女優の心理と似たようなものでしょうね。違いますかね。だから、どうだってことはないんですけど。あはは。

 ワタシ、渡辺先生が以前「婦人公論」に連載されていた「懲りない男と反省しない女」が大好きでしてね。「愛ルケ」も同じ頃連載しておりまして、両方楽しんでおりましたよ。特に婦人公論のほうは毎回爆笑。「せんせい、(色々)飛ばしすぎー」

 ワタシのように知性のないスケベじじぃはどうしたらよろしいでしょう。ちなみに、話の続きは①、②どちらがお好きですか。それともとどこさまならどのような展開が相応しいとお考えでしょうか。






02-11 10:18
とどこ
★"端野 萬造さん
            おはようございます。  私は2ですね。萬造さんとまた泥沼の三角関係。別の女が登場~。話の展開と してはおもしろいかと・




02-11 11:04
端野 萬造
>とどこさま
 ただ今現実逃避中でございますよ。

 ②ですか。栞と新たな段階に進もうとした萬造の前に官能的なクリムトのお好きなとどこさまが登場されるわけですね。うふふ。ちなみにワタシはミュシャの描いた少女の瞳に恋をしたことがございます。

 果たしてそんなふたりが、泥沼になりえるのでしょうか。なったら、オモシロいですねぇ。おそらく萬造はぼんやりつっ立てるだけでしょうけど。でも、時々なんかしてしまうという。それが問題行動なんでね。

 あーあ。では、麻婆豆腐を食してまいります。






02-11 15:55
とどこ
★"端野 萬造さん
ミュシャ。アールぬぼーっ~。ですな。ははは。  萬造さんは早打ちなんとかかと、思いましたが。  いがいとシュールなペシミストさんなのでしょうか?




02-11 20:43
端野 萬造
 ミュシャが米国で制作した、「スラヴィア」という少女に僕は目を奪われた。しばらく立ち止まってしまう。美しい装飾を施した額縁の中の彼女は、結構な大きさだ。それでも可憐な少女らしさを少しも損なってはいない。なおかつ神々しさまで感じさせてしまう。

 それに奇妙な懐かしさがあった。展覧会のポスターが「スラヴィア」でもう何度も目にしているせいだろうか。けれども、それだけではない、という「予感」が僕を不安にさせた。

(中略)

 足を止めずに通り過ぎ、廊下を渡ってしまってから、作品を見直さずにすぐ回れ右をした。不安の原因はあの子だ。あの子は「スラヴィア」に似ている。それは正確な表現ではないかもしれない。

 縁なし眼鏡はかけているし、背はそれほど高くはない。それでも「スラヴィア」を思い起こさせたのは、レンズの奥に見えた意志のはっきりした視線のせいだろう。それくらい印象的な高貴なまなざしだった。






02-11 20:52
とどこ
★"端野 萬造さん
ナルシストも少しお持ちか美しいものにひかれる。 で、わたし、この絵みたことないです。調べてみますね~。美術はお好きなんですか。たまに日曜美術館は見ます。




02-11 20:53
端野 萬造
(中略)

 申し訳なかったけれど、付き合ってもらった綺麗な彼女はただ家まで送っていくことにした。別れ際にキスはしたけれど、それはいつものキスじゃない。本当の意味でのお別れのキス。多分、綺麗な彼女は全然そんなことに気づいちゃいないだろう。

(中略)

 白いシャツに黒のベストをつけたショートヘアの女の子が紅茶を運んでくる。「スラヴィア」の彼女はまっすぐ僕を見つめている。視線をそらさない。まるで、睨まれているようだ。

「これから私とどうする気なの」
「どうして欲しいんだい」
「どうにもされたくないわ」

 なんだか途方もない子に手を出してしまったようだ。だったら止めてしまえば良さそうなものだけれど、そう出来なくなっている自分に気がつく。彼女もそう感じているようだ。冷めた紅茶を飲みほしながら、負けるわけにはいかない、と思った。馬鹿だな、とも思った。

 '92「美術館勤めの女」より抜粋




02-11 21:09
端野 萬造
>とどこさま
 クリムトを引用していただいたおかげで旧い作品の存在を思い出すことができました。まだ、「端萬記」にアップされていない駄作がいくつか残っているようです。読み直すと懐かしい。あの頃の自分がそこにいますのでね。

 もちろん、登場人物がワタシと同一というわけではございません。

 早打ちなんとか、ってなんですか(笑)。ワタシはせっかちですけれど、辛抱強さも持ちえているつもりです。麻婆豆腐は美味でしたし、水餃子もイケました。海老あんかけ焼きそば(塩)もなかなか。ここらへんがシュールなのでしょうか。あ、シャツにシミもつけてしまいました。

 眼鏡をはずすと鏡じゃ自分の顔も見えませんから、ナルシスというのもどうでしょう。美術ファンではなく、美術は嫌いじゃない、という程度。レオナルド藤田は好きですよ。ちなみに母は美術館でボランティアをしておりますが、最近タダ券が回ってこない。






02-11 21:21
とどこ
★"端野 萬造さん
いえ、ご存じなければ  いいです~。      なかなかですね。    にやり。






02-12 00:10
ぱんだのだ。 @bbtec.net
さすがでございます~萬様!
そうですそうです!お察しのとおりで(笑)
名前を変えました・・・

好みでは①です。
②は物足りないですねー

きっと萬様は愛ルケのような結末には
決してしない気がします。。。

死をもって愛を証明、って
私は嘘くさいと思うからです。

おそらく、萬様もそうではないか、と・・・?

でも、このままお兄さんを廃業にもしないと思います。
うーん、いちファンの推測ですが、合ってますか?






02-12 00:15
ぱんだのだ。 @bbtec.net
追伸:生々しい、とは思いませんでした。
ただ、本当の話だったらどうしよう・・・と
ドキドキは、しましたが・・・

どきどきどき。

あ、あと
>死をもって愛を証明、って
私は嘘くさいと思うからです。
というのは、あくまでも個人の意見です。
「私」が、そういう展開が好きではないだけです。
もし、気を悪くされたかたがいらっしゃいましたらごめんなさい。。。




02-12 06:16
端野 萬造
>とどこさま
 早撃ち、であればマックしか浮かばないのです。しかし、それとワタシの関連が想像できなくて。最近機会が全然なくってですね。

>ぱんだのだ。さま
 ワタシも名前を変えてからもうじき1年。http://www.mytokachi.jp/mt.php?id=kabamaru_7&blog_code=178#comment13 当面変更の予定はございません。

 ②のほうがスッキリしますけど、それではもの足りない、と。ただ①だとしても、萬造がすんなり受け入れるか否かはワカリませんので、どろどろになるか、どうか。

 ただ、萬造が内面で苦しむのは間違いないでしょうね。栞の幸せを考えた場合、どの行動をとるべきなのか、と。自分の想いもあるでしょうし。過程はどうあれ、死ぬなら萬造は独りで黙って逝く。それが愛の証明かどうかは?ですが。

 ま、創作ですから正解はございませんよぉ。現実でしたら、どきどきどき、ですか(笑)。






09-13 23:22
林檎好
勝毎アンソロジーは時々読みます。
選考者の中に知り合いがいて、
作品のコメントを読むのが好きでした。
なるほど、こう評するのがいいのかと・・・。

このブログを見るまで、
落選している人がいるということに
気がつきませんでした。
申し訳ありません。
楽しく一気に読むことができました。
図書館の花壇を
一足飛びに乗り越えるシーンが好きです。

ところで本題ですが、私は②がいいです。
欲を言えば、
「引っ越し先が決まったら」ではなく、
「自分で生きていく自信ができたら」とか
「自分の足で大地に立てたら」とか
そういう女性が好みですね。




09-16 08:17
端野 萬造
>林檎好さま
 評の仕方は色々でしてね。悪意さえなければ、どのようなものでも参考になります。たとえ酷評されたとしても、なんらかの愛情が感じ取れるものであれば、嬉しいもの。

 花壇を「えい、ままよ」と飛び越えるシーンはワタシも好きな部分です。萬造にとって、勝負ドコロでありますし。どうでも良いところに時間を掛けるタイプの割には、タイミングというものを大切にしてもいるのでしょう。

 なるほど、②ですか。ワタシのイメージとしては、栞が引っ越す決断をする裏には、林檎好さまのおっしゃる通り「子どもたちと一緒にやっていく断固たる決意と裏づけ」があると思います。栞はそういう女性。

 萬造はそれをよく理解しているでしょうね。「お兄さん廃業」は栞次第でしょうけれど。萬造にとっては、割とどうでもいい問題かも知れません、「お兄さんであるか、そうでないか」は。
  


Posted by きむらまどか at 17:17Comments(1)創作・勝毎アンソロジー

2012年07月08日

モウいい加減あきらめたら・またもや落選/『たち呑みや』

2007年7月29日(日) 13:00 ▼コメント(12)

 前回作までとは違う名義で応募いたしましてね。それこそ『端野萬造』で。今後の作品は全て『端野萬造』名義で発表することといたしました。その記念すべき第一作ではございましたが結局「落 選」と相成りました。

 そのうち入選作が順次、毎日曜日(月末週を除く)に十勝毎日新聞紙上に掲載されると思われますんで、比較されるのも御一興かと。「あ~あ、また落ちちまったよ」

 ま、お読みになれば、その理由がおわかりになるのかと。



 七月ともなれば、午後六時の帯広の街並はまだ闇に包まれる前。日中の日差しに溶けるほど焼かれたアスファルトは、夕暮れに安心して蓄えを放射している。その開放感に満ちた熱気は、路上のもの全てに向けられていて逃れようがない。

 古びた皮サンダルの底から伝わってくる暑さに辟易としつつ、わたしの歩調はとどまらない。勤め帰りの人通りが出始めた街中で、やはり自分の風体に恥ずかしさというか、気負いが存在しているせいだろう。

 四十をみっつも越したというのに、平日の街中をサンダル、カーキの半ズボンに黒いTシャツ姿でうろついている。これでは、真っ当な職業についているとは思われない。だが、経営コンサルタント兼パチプロとしては、妥当な服装だ。

 今日の結果は散々だ。今日は、というよりも馴染みにしていたパチンコホールが閉店してしまってから、すっかり駄目だ。大体において、最近できたようなホールは嫌いなのだ。どうも情緒というものに欠けていて、落ち着かない。

 馴染みの店では、白髪の混じった頭髪を七三に適当分けした初老の痩せた男と関係にわけがありそうな小太りの化粧をしっかりした女が毎日のように一緒に打っていた。

 二人の姿を見かける度に、「あんな風に歳をとりたい」と憧れたものだ。情緒のある店には、そういった夢があったのに。

 今日の惨憺たる結果も、落ち着かない店で勝負を強いられたせいだ。なけなしの二万円が氷の如く溶けていくさまは実にせつなく、胸にきつくのしかかった。財布に残るのは三千円。銀行のカードローン口座から下ろせるのは、あと壱万円くらいだろう。ATMでレシートはいつも発行させないし、残額をきちんと確かめる勇気すらありはしない。

(こんな男、どうしようもない)

「やめないの? どうしてやめられないの? そうね、あなたは絶対やめられないわね」
 酒に酔って前後不覚になった翌朝に別れた妻に投げつけられた言葉が去来する。フラッシュバックのように何度繰り返されたことか。借金をしてまで打ち続け、呑み続ける日々は未だ続いている。

 たち呑みの「とどろきや」に向かう。酒屋が店舗内にカウンターを造作して呑ませるという形態が東京あたりには昔からある。帯広の中心街にできたのは、何年前だったろうか。元は全国でも指折りの鮮魚店があった場所だ。酒屋を経営していた親仁が店の経営を息子に譲り、自分の好きな酒だけを置いたのがこの店の始まりと聞いている。

 口開けの頃のとどろきやは閑散としている。ゆったり呑める。痛んだ胸を癒すのに必要なのは酒と静寂だ。今のわたしにはそれしかない。角打ちといわれる酒屋のたち呑みは酒代を原価で提供するのが決まりみたいなもので、旨い酒を呑んでも安くすむ。

 魚屋の跡のせいなのか、暖簾をくぐると、かすかに独特の臭いがするのもとどろきやの気安さを醸しだしている。

「まいど」
「え、ぃらっしゃい」
 親仁はいつもの通りわたしの顔を覗き込んでから、口の端をゆがめて歯をみせる。
「今日はいくら負けたんだい」
「いや、ちょっとだよ」
「そうかい。バクチはたいがいにしときなよ」

 親仁にはわかっているのだ。負け金の額も見当がついているに違いない。伊達に永年商売を続けてきたわけではないだろう。わたしが負けた金額を明かさなかったのは、見得ではない。心配を掛けたくないせいだ。

「なんにします」
「そうだな。暑いから、スッキリ辛口のを。余韻が伸びる感じで」
「……。じゃあ、これかな」

 背中の冷蔵庫から見当をつけた酒を選び出す。一升瓶から躊躇なく猪口に注ぎこむものだから、当然酒は受け皿にこぼれる。そのこぼれた酒は後で猪口に戻す。

 白磁のきき猪口の底には藍色で大小の円が描かれていて、酒の色を確かめるのに具合がいい。同じ酒でも違った色彩に感じられることがある。今日の酒は、重く見えた。

 カウンターに置いたまま薄縁に口をつけ、酒を一気に吸い込み喉に流しこむ。人生の苦しみも悲しみもつらさも、その一瞬だけは消え去る。

 親仁が煙草をくゆらせながら言う。
「ところで、兄ちゃんのところはどうだい」
「兄ちゃんて。あぁ、南町の居酒屋さんね。看板出したくないって、言うんだよなぁ」
「まったく。客が入ってナンボなんだから、近所にチラシ配ってもやれって、言うんだ」
「そうなんだよなぁ。店に対するこだわりってのは大切なんだけれど、酔狂でやるわけにゃいかない。借金してんだし」

 兄ちゃんというのは、わたしと親仁の商売相手だ。わたしは新規開店に至るまでのプランの作成、金融機関との折衝を手伝い、親仁は酒の仕入れで協力した。新しく興した店に成功してもらわないと、わたしは評判に関わるし、親仁は代金回収がままならなくなる。

「金はかけんなって、ネジ巻いたんだけどな」
「まぁ、最初の店だから、思い入れはあるわな。店のロゴなんかにもこだわって、自分で三百枚書いたって」

 わたしが店に入る前に華奢な女客が一人いた。「とどろきや」は路面店で入りやすい。女が一人で立ち寄れる雰囲気はあるが、珍しい。こざっぱりした雰囲気が好ましくて、気になっていた。
 その女が「今、ロゴっておっしゃってましたけど、デザイン関係の方なんですか」と話に割り込んできた。口を挟むタイミングを窺がっていた様子だった。

(人生のデザインを描き損ねたのに、、そんなワケないよ)
と思い浮かんだが、あまりにキザなので口にするのをためらった。

「いいや、全然関係ないね。美術の評定は5段階の3でしたし」
「えっ、あたしは2でしたけど、広告代理店でデザインしてますよぉ」名刺を出した。

 右手で受け取ってから、改めて顔を見る。すっきりとした顔立ちだ。肌が綺麗で清潔な印象だから、化粧はあっさりでも見栄えがする。歳の頃は三十を越しているだろうか。それを胸にとどめて、わたしは言った。
「名刺なんて、持ってないんで」

 名刺がないなんて、嘘だ。「端野萬造事務所」なんて名刺、みっともなくて出せないだけだ。
「経営相談所をやってる端野です。よろしく」
 名刺代わりに右手を差し出した。

 いささか虚をつかれたような表情で、彼女も遠慮がちに爪の綺麗な手を差し出した。それをしっかり握り締めた。
「よろしく、初めまして」表情は邪気のない笑顔に変わっている。そつがない。

 歳下の女と握手するなんて、いつ以来のことか記憶にない。その湿り気を帯びたやわらかさと、温かさに陶然としそうになる。女と触れ合わなくなって、どれくらいになるのだろう。離婚した妻とも、子供が生まれて以来、なにもなかった。

 名刺の名前を眺める。平仮名で「みけ」と書いてあった。
「みけさん、とおっしゃるんですか」
「そうなんですよ。へんな名前でしょう」

 声をたてて笑った。屈託ない仕草がかわいらしい。元妻にどことなく似ている。アイツも良く笑っていた。別れる頃にはわたしに対しては笑顔を見せなくなったが。

 でも名前は妙だ。ふざけた名刺だと思う。会社名が入っているから、どう見ても仕事用なのだが。
「味という字が姓で、華やかの華ってありますよね、それをけ、と読ませる」確かに名刺にも味華とルビが振ってある。普通と逆だ。

「なるほど、味華さんか。失礼だけど中華料理屋みたいだね」
「よく言われます。実家はラーメン屋ですし」
「名前で苦労しなかった?」興味本位で訊いた。
「うぅん。子どもの頃からそれが当たり前でしたから。むしろ仕事を始めるようになって、有利なことが多いくらいじゃないかなぁって。名刺も意識してます。印象に残りますから」
「なるほど。そんなものか」
 あっけらかんと語るみけさんに同意せざるを得ない。

 北海道の風景が好きで、毎年単身オートバイでツーリングしていると言う。とどろきやに訪れるのも初めてではないと。
「もう、三年目なんですよぉ。ご存じないでしょう」すねた口調で親仁を問い詰める。

「知ってるよ」と煙草をふかしながら親仁は言う。照れたのか、まぶたをしばたたかせる。
「こんなにこだわった日本酒が揃っている店に出会えるなんて、思いませんでしたぁ」
 仕事をしていても、次のツーリングのことを想うと元気が出るのだという。
「北海道旅行の広告なんかも手掛けててぇ。趣味と実益ですね」

 いるだけで、周囲を和やかにしてしまうのは天性のものだろう。おまけに名前が「みけ」だ。話しながらもクルクル変わる表情を観ているだけで飽きない。

 それにしても、ライダー臭さがない。日焼けもしてないし、ボトムはジーンズが黒のレザーにブーツっていうのが定番だが、みけさんはあっさりしたオレンジのポロシャツに白のミニスカートだ。

 らしくないね、と訊いたら、走るときはしようがありませんけど、ライダーっぽいの実は苦手なんです、と笑った。
(苦手、か)
 元妻がよく遣っていた言葉だった。恐らく、アイツが人生で遣った「苦手」という言葉の八割はわたしに対して向けられたはずだ。

「苦手なのよ、こういうことは」
 二日酔いのわたしをにらみつけながら、アイツは両腕を胸の上で組んで何度も吐き捨てた。わたしは酒乱だった。事を起こすたびに反省して自分の行為を呪った。しかし酒はやめられなかった。結局同じ過ちを何度も繰り返し、最後は愛想をつかされた。

「あなたが出る? それともあたし?」
わたしが家を出ることにした。離婚届けに捺印した時は寂寞の情を禁じえなかった。

 あれからもう三年だ。離婚するまで一人暮らしをしたことがなかった。それでもなんとかなるものだということを知った。しかし、一人暮らしを快適だと感じたことは一度もない。失われた日々はもう戻らないのか。

 言葉を失ってしまったわたしを引き継いで、親仁が訊く。
「東京あたりならたち呑みや、多いでしょう」
「最近増えてきましたね。はやりみたいで、ちょっと気に入らない」皮肉な口調だ。

「職場に近いんで、銀座の裏通りにある古いお店が好きでよく行きます」
 午後三時から営業している銀座のバーがあるという。時折仕事中に抜け出して、そこでビールを呑んでから、深夜までかかって仕事を片付けたりするらしい。

「銀座でたち呑みって、イメージわかないなぁ。新橋とか新宿ならねぇ」気を取り直してわたしも会話に加わる。
「銀座も表通りばかりじゃないですもの。あたしもそうですけど、サラリーマンがたくさんいますしね」

 確かに銀座に本社を置いている有力企業は少なくない。ということは働いている人間が少なからずいるということだ。表の顔もあれば、裏の顔もある、か。

 三杯目を注文する。財布の中身を意識せざるをなくて、情けない。みけさんが「あたしもお願いします」と言う。
「本当だったらご馳走したいところなんだが、今日は財布の中身が厳しいんだ」
「あら、そんな。いいんですよぉ、お話しに付き合っていただけるだけで楽しいですぅ」
 おどけた口調が救いだ。
「バクチがいけないんだよな」親仁が真顔でいう。
「へぇ。パチンコとか、お好きなんですか」

 みけさんは察しがよい。くるくる動いていた瞳が、わたしの心根を覗き込むようにみつめる。背はわたしより低いが、両の足でしっかり立っている様子で大きく見える。

「パチンコって、おもしろいんでしょうね。でも、やめなきゃっていう人が多いのどうしてなのかな」
「金が掛かり過ぎるからだろ」
「損するのわかっているのに、やるんですね」
「わかっちゃいるけど、やめられない、ってやつだ」
「うふふ。そうですね」
「親鸞聖人が、そうおっしゃったらしいよ」親仁がしたり顔でいう。
「真夜中の銀座中央通りに牧師さんがいたんです。あたし宗教は苦手ですけど、その方はおもしろいなぁって」

 ハーフで髭ヅラ、しかも牧師らしからぬ派手なスーツで辻説法をおこなうのだという。決まり文句は「愛されているよ」。
「ご通行中のみなさん。グッド・イヴニング・エビバディ。ユー・アー・ラブド・バイ・ジーザス(神に愛されているよ)。ウェルカム・トゥ・ギンザ・ジャパン」

 いつ見かけても明るくて元気だった、精神的につらい時に横を通ると必ず「そこのおじょうさん、愛されているよ」と声を掛けてくれたし、と。
「大好きな牧師さんだったのに、いっぱい勇気付けられたのに。いなくなっちゃった」みけさんは目を伏せた。

 刑務所で服役中だという。覚醒剤を使用したあげく、信者の人妻と事故を起こしてしまったそうだ。牧師は元々暴力団関係者だったことで有名だったらしい。

「人間て、弱いものだよ。でも誰もが愛されているんだよ。それを忘れちゃいけない」
 人には逃れることができないものがあることを牧師は身をもって示したのか。たとえそれが、結果としてであったにせよだ。わたしが何度悔いても同じ過ちを繰り返し、アイツを苦しめてしまったことを、神や仏は許してくれるのだろうか。少なくともアイツには伝えたい。「おまえのことを愛していた。甘えてしまっていたんだ」

「東京に来ることがあったら、銀座のたち呑みやに寄ってくださいね。お電話くれれば、あたしも行きますから」

 事務所兼自宅への道のりを一人歩きながら、牧師のことを考えた。アイツのことも考えた。みけさんと別れ際に交わした握手の余韻がまだ右手に残っていた。財布には千円残っている。

「でも、事件を起こしちゃうと終わりなんだね、世間は減点主義だから」
 そう言ったのはみけさんだったか、わたしだったか。酔いに身を任せながら、自分の犯した愚かな行為を呪った。なにを行うにしろ、人に欲望がある限り、行為全てが悪でしかないとしてもだ。わたしは悔い改めることはできるのだろうか。

 空気はまだ生暖かさが残っていたが、昼間のとは全く違っている。風がゆるやかに吹いているせいもあるのだろう。アスファルトも、大分落ち着いてきた。
 三日後、東京に住むおない歳の従兄弟から招待状が届いた。ついに結婚することにしたらしい。九月にわたしはみけさんと銀座のたち呑みやで再会するつもりだ。
    (了)

関連ブログ:銀座3丁目の立ち呑みMOD


コメント(12件)


2007-07-29
ソレイユ
>今日の酒は、重く見えた。

これですね。。。
気怠い孤独感に響きます。




2007-07-29
ai
今回の作品はいろいろな場面が交差している
ようで・・・読んでいるうちに何か萬造さまの中で
変わられたものがあったのでは?と思いました。
参照項目も読ませて頂きました。昨年の出会いも
不思議なシチューエーションですね。
人は弱いからこそ「愛されてる」という実感が
欲しいものです。




2007-07-29
いくぽん @plala.or.jp
男の哀愁が漂ってますね
オンナ(一応)の私には書けない作品です

萬造さまの作品には、よく「途中からやもめになった」男性が
登場しますが、愛着あるのかしら、そういう境遇・・・
サマになってるのでカッコいいですが。

「みけさん」とのその後の物語を読みたくなりました






2007-07-31
maikyon
次作は僕を主人公に書いて下さい。

入選したら赤っ恥で帯広歩けない(笑)




2007-08-01
おさるのかぐや彩優木
やっとじっくり読む事ができました。
正直一回読んだだけではピンとこなかったのですが、時間をかけてゆっくり読むと、なかなか味わい深い作品ですね。

私は♀なので、切り捨てた元奥様の心情をもう少し深く推測したくなってしまいます。
きっと簡単に切り捨てたわけではなく、そこに至るまでの心境の変化というかをね。

でも、もし別れた夫が、みけさんなような方と素敵な出逢ってくれるなら、その選択も悪くはなかったのかと。
自分とは一生連れ添うことは無理でも、一度でも関わりのあった方には残りの人生もできることなら素敵に過ごして欲しいと思うので。

いくぽん様と同じく、みけさんとのその後の物語、とても気になります。いつか読めたらいいなぁ。


それにしても小説を書くというのは、本当に想像以上に自分の身を切り刻む作業なのではないでしょうか?
反吐を吐きそうになりながら生きている「コトバ」を綴っていくのは萬造様にとってはやはり「生きがい」のひとつだったりするのかな?

私にはとうていできない事なので、萬造様に限らず、モノカキの皆さんのこと、本当に尊敬します。

産みの苦しみがひしひしと伝わってくる作品でした。
生意気を承知で言わせてもらえば、だからこそ、ちょっと「痛い」感じがしたのかな?
でも、私は嫌いじゃないです。
また次の作品も楽しみにしてますね。




2007-08-03
むし虫堂
俗人たる自分への愛着
そんなテーマが僕には見えます




2007-08-04
端野 萬造
>ソレイユさま
 ちょっと安易な比喩でございましたけれど、気付いていただきありがとうごいました。同じものでもココロ持ちで違って見えること多いですよね。

 特に失恋時など。

>aiさま
 相当な洞察力だと思われます。読み手としての能力の高さに感服いたしました。書き手である自分でも意識していなかった変化が間違いなく生じておりましたから。

 人は弱いからこそ・・・、には共感致します。

>いくぽんさま
 どうしよもないクズのつぶやきとでも申しましょうか。カッコいいなんてとんでもないですよ。情けない、という表現しか似合いませんね。

 「途中からやもめ」って。あはは。最初から「やもめ」な人なんかいませんからー。

 みけさんと萬造は銀座で会えたんでしょうかね。それは別の話し、でございます。

>maikyon師
 ワタシが小説で書いても、注目されてませんから誰も気付きませんて。安心して、また来勝してくださいまし。




2007-08-04
端野 萬造
>おさるのかぐや彩優木さま
 ゆっくりお読みいただけたようで、とても嬉しく思います。ご指摘の通り、もう少し元妻を書き込めば良かったのかな、と反省しております。

 そのせいで、ただの愚痴のような作品に堕してしまいました。

 一度でも関わりがあった方には・・・、に激しく同意いたします。たとえ相手に憎まれていたとしても、ワタシはそう願い続けるでしょう。相手にその気持ちが伝わらなくとも。

 「コトバ」を綴る作業は「生きがい」なのでしょうか。とりあえずは「それしかできないから」としておきましょうか。尊敬されるようなものではございません。

 自分を表現するのに、手っ取りばやい手段であることは間違いないようです。お陰で、多くの方々と関わりができましたし。

 いいのも、悪いのも。

 「痛い」というのはなかなか微妙な表現でございますね、どう判断すればよろしいのか。たとえ「痛い」と捉えられたとしても、ワタシにとってはアゲる意味があることだけは、間違いないようです。

 早く、楽しんで読んでいただける作品を書けるようになりたいものです。

>むし虫堂さま
 ご指摘の通り、もう、自己愛だけといってもいいでしょう。自分だけが可愛くて無反省。ワタシ自身がそうであるように。


2007-08-04
むし虫堂
人は俗人しか愛せないのですよ。
誰もが俗人に止まろうとするベクトルをもっているのだと思うのです。




2007-08-04
端野 萬造
>むし虫堂さま
 お言葉、胸に染み入ります。どんなに認めたくない部分があっても自分は自分。そこから逃れることはできませんものねぇ。

 辛くても悲しくても、ずうっと向き合っていくしかない。であれば、愛することしかできないのかなぁ、と。たとえ自分ひとりであっても、誰からも愛されないよりはマシでしょうし。






2007-08-05
maikyon
人はいつだって「愛すれど悲し」から逃れられないんだよなぁ。

路線変更して、ちょいワル&軽ヤバ中年で行こうぜ!




2007-08-05
端野 萬造
>maikyon師
 路線変更ですか。ワタシの場合ムズカシそうです。ストイックな方でしたら、なんとか。老後を見据えたスゴシかたとか。
  


Posted by きむらまどか at 18:46Comments(0)創作・勝毎アンソロジー